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大阪地方裁判所 昭和54年(行ク)7号 決定

原告 姜政男

被告 法務大臣 ほか一名

代理人 岡崎真喜次 宮本善介 ほか二名

主文

本件申立てを却下する。

理由

一  原告の本件文書提出命令申立ての要旨は別紙記載のとおりである。

二  当裁判所の判断

(一)  別紙記載の(一)の裁決諮問委員会議事録が存在するか否かの点はさておき、まず右文書並びに別紙記載の(一)の禀議書及び裁決書メモの提出義務の原因について検討する。

(1)  民事訴訟法三一二条三号後段の挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成された文書とは、挙証者と文書の所持者との間の法律関係そのものを記載した文書だけでなく、その法律関係に関連のある事項を記載した文書をも含み、その作成について右両者が直接又は間接に関与したかどうかを問わないけれども、文書の所持者がもつぱら自己使用のために作成した内部的文書は含まれないと解するのが相当である。

(2)  前記禀議書とは、入国管理事務の担当職員が退去強制手続又は在留特別許可手続の過程で事務決済のために作成し、右職員間で回付する文書であると解され、この意味での禀議書が存在することは被告らの認めるところである。

前記裁決諮問委員会議事録とは、裁決諮問委員会の審議内容を記載した文書であると解されるところ、本件記録によると、同委員会は法務省入国管理局長等の担当職員で構成され、法務大臣が出入国管理令に基づき裁決をするについて同大臣に対し意見を具申する機関であつて、法令上の根拠を有しないものであることが認められる。

前記裁決書メモとは、いかなる文書を意味するのか必ずしも明確ではないが、メモという表示から推測すると、担当職員が裁決手続の過程で個人的に作成した覚書のことであると解される。

そして、右裁決書メモ及び裁決諮問委員会議事録はいうまでもなく、右禀議書も法令上作成を要求されている文書ではない。

(3)  そうすると、右各文書は、いずれも入国管理事務の担当職員が事務処理の便宜上自己使用のために作成した内部的文書であることが明らかであるから、仮に右各文書があり、被告法務大臣がこれを所持しているとしても、右各文書は民事訴訟法三一二条三号後段の文書に該当しないとしなければならない。

(二)  原告が提出を求める右各文書以外の文書(別紙記載の(一)の「等一切の文書」と表示されたもの)は、特定性に欠けるから、これらの文書の提出命令の申立ては不適法である。

(三)  むすび

本件申立てを却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 古崎慶長 井関正裕 小佐田潔)

別紙

文書提出命令の申立

(一) 文書の表示及び趣旨

1 原告に対する退去強制手続の過程で作成された禀議書、裁決諮問委員会議事録、裁決書メモ等一切の文書。

2 原告の兄姜政植に対する退去強制手続及び在留特別許可に至る過程で作成された右同の文書。

3 甲第一号証記載の者らに対する退去強制手続及び在留特別許可に至る過程で作成された右同の文書。

4 昭和四八年度において退去強制令書の発付を受け、あるいは在留特別許可を受けたもののうち、不法入国者で、国籍が朝鮮もしくは韓国であり、大阪入国管理事務所で取り扱つた者らに対する退去強制手続及び在留特別許可に至る過程で作成された右同の文書。

(二) 文書の所持者

法務省(入国管理局)

(三) 証すべき事実

原告と国籍、性別、年令、入国年月日(在日年数)、在日在外の親族関係、在日中の経歴、生活状況等が類似する不法入国者は特段の事情のない限り、原則的に在留特別許可を受けている事実。

(四) 文書提出義務の原因

民事訴訟法第三一二条第三号後段

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